排液中皮細胞診の手技
排液中皮細胞診は、非侵襲的でかつ簡便な方法である。一般的な臨床検査室で実施可能であり、特殊な染色法も技術も必要としない。検査に要する時間は、1検体1時間程度である。検査に必要な機器は、遠心器(50 mL用遠心管が入るものが望ましい)、遠心塗抹器(オートスメア)、顕微鏡+CCDカメラ、コンピュータ(計測ソフト)である。遠心塗抹器は100~150万円、CCDカメラ(計測ソフトこみ)は50~100万円である。

(1) 採液
1.5%または2.5%のovernight貯留液を50 ml用遠心管に50 ml採取する(写真1)。集細胞にはovernight排液が望ましいが、場合によっては4時間貯留液でも測定は可能である。採取された排液は4℃以下で48時間保存可能である。48時間以上経過した検体は形態が大きく変化するので測定には適さない。
(2) 中皮細胞分離
採取された排液を遠沈(1500 r.p.m.、4℃、10分)し、上清を静かに捨てる(写真2)。しばらくすると遠心管の底に500 μLほどの上清液と沈渣が溜まるので(写真3)、ピペットで注意深く攪拌し(写真4)、塗抹用検体とする。
(3) 塗抹
排液そのものは蛋白濃度がうすく粘性がないために、従来の塗布法では乾燥するときに細胞の変性がおこり、正確な判定ができなくなる。最適の方法はCytospin®(オートスメア など) による遠心塗抹法であり、この方法では水分が濾紙により吸収乾燥されるために細胞変性がほとんどない(写真5)。
Cytospinの場合、塗抹する量としてはピペットで2滴程度(200 μl程)で、800 r.p.m.で5分遠心する(写真6)。
(4) 固定染色
乾燥したのち、May-Gruenwald Giemsa染色を行う。染色液の状態、温度等によっても多少差はあるが、May-Gruenwald液に約4分、緩衝液に約1分、Giemsa液に約15分行う。水洗乾燥後、封入する。
写真1 写真2 写真3
写真4 写真5 写真6

(5) 分類および面積測定
メイ・ギムザ染色によるPD排液細胞診について
PD排液にみられる細胞は、ほとんどがマクロファージと中皮細胞である。PD排液中の中皮細胞は、正常体腔液の中皮細胞とはやや異なる形態を示す。PD透析液からの刺激により反応性で多核を形成していることが多く、またマクロファージも同じ理由から反応性に富むことがあり、中皮細胞との判別が困難なことがある。
もう一つの特徴として、フラットセル(flat cell;一般細胞診では組織球とよばれることがある)がしばしば存在する。この細胞は女性に高頻度(85%)に見られることから、Multicystic mesotheliomaとの関連性が考えられている。腹膜透析液からの刺激によって、腹膜(特に骨盤内臓器の)表面にmicro cystsが生じ、このcystsがruptureすることによってcysts内表面を覆っていた化生扁平細胞が腹腔内に出現する。この細胞は中皮細胞由来であるが、異形化したものであり、腹膜劣化と直接関連性がなく中皮細胞としてカウントしない(squamous metaplasia)。
(1)中皮細胞
核形は円形、類円形でほぼ中心性である。クロマチンは密で分布均等(細顆粒状)で濃染することが多い。しばしば、核小体の腫大がみられる。細胞形は円形で、細胞質は厚ぼったく、細胞質の内側と外側で染色性が異なる傾向を示し、印環様にみえることが多い。しばしば空胞がみられる。細胞質の辺縁は全周性にファージになる傾向がある。核はしばしば、多核を形成し(核異常中皮細胞)、単核の正常中皮細胞とは区別される。
細胞質の一部が偽足のように染色される突起物(ブレブ)が形成されることがある。細胞接合部位は直線状になったり、スポット状(窓様)にみえることがある。

正常細胞(右)と核異常細胞(左) ブレブ


接合部(直線状) 接合部(窓様)
(2)フラットセル(組織球)
核形は円形、類円形で中心性のことが多い。クロマチンは粗、分布不均等(粗顆粒状、粗網状)である。ときに凝縮様像をしめすことがある。核小体はみられない。細胞形は円形、類円形で、細胞質は淡染色性である。巨大化し、N/C比が極端に小さいことが特徴的である。
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フラットセル(矢印は正常中皮細胞)
(3)マクロファージ
核形は一定しない。クロマチンは粗、分布不均等(粗顆粒状、粗網状)で淡染性のことが多い。細胞形は歪で、細胞質は淡染性、粗網状で多数の小空胞がみられることが多い。細胞質内外の染色性の差はない。
しばしば、反応性に核が円形で、細胞形が円形、細胞質は濃染性のマクロファージが見られる。腹腔内が何らかの炎症状態にあるとき、ステロイドが投与されているときにみられることが多い。時に、中皮細胞と酷似するので注意が必要であるが、クロマチンは粗、分布不均等(粗顆粒状、粗網状)であるのでこの点から中皮細胞と見分ける。
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マクロファージ(偽印環様だが核は粗) 中皮細胞( ) マクロファージ( )
計測上の注意
(1) 原則として、細胞周囲が確実に判断できるものを選ぶ。変性が強い場合も測定しない。PD排液の特徴として中皮細胞はクラスターを形成することが多いが、この場合も細胞周囲の判断が可能なもの、周囲の細胞により変形を受けていないものを測定する。
(2) ブレブは原則、面積測定部分には入れない。また、ブレブや空胞が細胞全体の50%以上におよぶ場合、変性中皮細胞として測定しない。
(3) フラットセル(組織球様細胞)測定しない。
(4) 前処理の段階で細胞が収縮することがある。これは特にフィブリン析出のある検体ではしばしば観察される。標本全体を観察して、マクロファージの収縮像、中皮細胞の濃縮化が生じていれば、測定は行えない。
(5) 面積測定は、50個以上を計測しその平均と標準誤差(SEM)をとる。計測は顕微鏡からのCCDカメラ画像信号をPC処理して行うのが最も確実で速い。細胞数が30個以下の場合は、統計学的に誤差が多くなるので、基本的には測定はしない。
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クラスター(矢印はマクロファージ) 周辺不鮮明(ブレブ)
手技の講習、見学について
中皮細胞診の手技講習、見学等について随時受け付けています。原則は火、木の午後半日です。ご希望の方はご連絡ください。
白鷺病院 腹膜形態検査室 山本忠司
E-mail: yamamoto@shirasagi-hp.or.jp TEL: 06-6714-1661 FAX: 06-6719-6169