Q&A

Q1: 細胞数不足と指摘されたが問題はないか。また、測定できる方法はないか。
Q2: 細胞変性により測定不可と指摘されたが問題はないか。また、対処方法はないか。
Q3: 石灰化断片の析出による細胞変性で測定不可であったが問題ないか。
Q4: 細菌のコロニー多数認められ、そのため測定不可であったが、問題ないか。
Q5: 白血球多数のため測定不可であったが、問題ないか。
Q6: 血性排液のため測定不可であったが、問題ないか。
Q7: 中皮細胞診はどのくらいの間隔で行うべきか。
Q8: 短期間で面積が大きく変動するが、問題ないか。
Q9: 腹水でも中皮細胞診は可能か。
Q10: 洗浄時の細胞診で洗浄液はどれくらいの時間貯留すればよいか。
Q11: PD期間とともに中皮面積は上昇するとされているが、逆に低下してきた。これはどういうことか。
Q12: PETはLからLAのレベルであるのに中皮細胞面積は400mm2をこえており、どう判断してよいのか。
Q13: PETがHであり、除水不全もあるのに中皮細胞面積は250mm2未満であり、どう判断してよいのか。
Q14: 中皮細胞診でEPSを予防できるのか。

 

Q1 細胞数不足と指摘されたが問題はないか。また、測定できる方法はないか。

A

まれに、排液中の細胞数が少なく集細胞がうまくいかないことがあります。処理後鏡検で全視野の細胞数が30個未満の場合は細胞不足として取り扱います。これは統計学的に30個以上でないと誤差が大きくなるからです。細胞不足の原因は明らかではありませんが、それほど傷害されていない腹膜でも生じることがあります。
ただ、EPSもしくは腹膜硬化症で腹膜がcellulardesertの状態になっているような場合にも、排液中皮細胞がまったく認められないことがあります。今のところ、 どちらの理由で細胞が少なくなっているか判断する方法はありませんが、他の臨床所見などとの総合的な判断である程度推測がつくと思われます。
細胞不足の場合は、バッグ全量を処理すれば集細胞は可能ですが、時間的、物理的な問題により実際には不可能です。もし、頻回に細胞不足が続くようでしたら、300 ml~400ml程度(50ml容器6~8本)を送付してください。しかし、この場合でも不足することがあります。

Topへ

 

Q2 細胞変性により測定不可と指摘されたが問題はないか。また、対処方法はないか。

A

細胞診検体の前処理の段階で、フィブリンが析出すると標本の乾燥が不十分となり、細胞が浸透圧収縮を受けて変性し、測定できないことがあります。
腹膜の傷害とは何ら関係はありませんので問題はありません。長期PD症例や腹腔洗浄を行っている症例では、フィブリンが析出することが多く、細胞変性を生じることがしばしばみられます。対処方法としては、検体にヘパリンNaを添加して採液後の析出を防ぐ方法がありますが、フィブリンが腹腔内で析出していたものであれば効果はありません。

Topへ

 

Q3 石灰化断片の析出による細胞変性で測定不可であったが問題ないか。

A

まれに排液中にCa塩の結晶、もしくは石灰化断片とみられる物質が多数存在することがあります。腹腔内に石灰化のある症例でみられることが多く、このような物質は前処理の遠沈分離の段階で細胞を破壊するために測定不可となります。
対処方はいまのところありませんが、排液中にまで石灰化断片が出てくる症例では、細胞診をするまでもなく、腹膜は強い傷害を受けている可能性が強く、要注意症例です。

Topへ

 

Q4 細菌のコロニー多数認められ、そのため測定不可であったが、問題ないか。

A

検体に細菌が多数認められ、そのために中皮細胞が変性を受け測定できないことがあります。考えられる理由は四つあります。
(1) 腹膜炎時で白血球数が多く、好中球も多数である場合は排液にも細菌認められることがあります。
(2) 採液時のコンタミが原因で輸送中に細菌が繁殖することがあります。
(3) APDでの排液バッグは不潔なことが多く、この排液バッグより採液した場合、細菌が認められることがあります。
(4) 腹膜炎発症前のかなり初期の段階で、細菌が見つかることがあります。
(1)以外は原因を特定することは困難です。最も多いケースは(2)と(3)です。

Topへ

 

Q5 白血球多数のため測定不可であったが、問題ないか。

A

腹膜炎時は白血球数が多く測定はできません。腹膜炎時以外でも、白血球数が50 /mL程度以上のときは測定できないことがあります。
特にマクロファージが増加することがあり、まれに測定できないことがありますが腹膜の傷害とは関連性はありません。白血球数が50 /mL未満に低下後の再検が必要と思われます。

Topへ

 

Q6 血性排液のため測定不可であったが、問題ないか。

A

目視によるバッグ混濁が認められない場合でも、顕微鏡的には血性排液であることがあり、この場合測定できないことがあります。
顕微鏡的血性排液は一時的なことが多く、期間(2~3週間以上)をあけて後の再検が必要と思われます。この状態が長期に続くときは微量ではありますが血性排液状態であり、注意する必要があると思われます。

Topへ

 

Q7 中皮細胞診はどのくらいの間隔で行うべきか。

A

腹膜劣化や腹膜機能低下がそれほど疑われない症例では、1年に1回(PET検査と同頻度)、かなり腹膜劣化が進展している症例、面積350 mm2以上の症例や腹腔洗浄症例では3~6か月に1回程度です。

Topへ

 

Q8 短期間で面積が大きく変動するが、問題ないか。

A

中性液の使用、HD併用療法、腹腔洗浄の症例では面積は大きく低下するので問題はありません。中皮細胞面積は剥離細胞の計測であるため、まれに、何からの理由で剥離状態が変化し面積が大きく変化することがあります(特に腹膜炎や腹部への強い物理的刺激など)。そのため、面積からの判断はOne Pointではなく連続した測定結果で判断することが必要です。
また、特定の理由もないのに、毎回測定で面積が乱高下する症例があり、このような症例は中皮細胞診は不適応と考えられます。原因は不明です。

Topへ

 

Q9 腹水でも中皮細胞診は可能か。

A

原則的には腹水でも検査可能です。ただ、腹水は高度のフィブリン析出や血性排液のことが多く、測定不可能である確率は高いです。

Topへ

 

Q10 洗浄時の細胞診で洗浄液はどれくらいの時間貯留すればよいか。

A

細胞数が十分にあることが細胞診での条件です。1日1回の洗浄であれば十分な細胞数が得られますので、貯留は必要ありません。1日2回以上の洗浄であれば、数時間(3から4時間)の貯留が必要です。
週1、2回もしくはそれ以上期間を置く洗浄であれば、採液前2日間、1日1回洗浄を行い、3日目の洗浄時に採液してください。まれに、洗浄液で細胞数の少ない症例があり、細胞診ができないことがあります。

Topへ

 

Q11 PD期間とともに中皮面積は上昇するとされているが、逆に低下してきた。
これはどういうことか。

A

中性液の使用、HD併用療法、腹腔洗浄の症例では面積は低下します。療法の変更なしに低下してくる場合は、今のところ原因は不明ですが、腹膜は一方的に悪化するのではなく、回復している時期もあると推測されています。
ある種薬剤(ARBなど)の影響、腹膜そのものの回復機能など種々条件によって面積は低下してくることもあると考えられます。PETが回復してくる症例がまれにありますが、同じ理由と考えられます。

Topへ

 

Q12 PETはLからLAのレベルであるのに中皮細胞面積は400mm2をこえており、どう判断してよいのか。

A

我々の考えでは、排液中皮細胞診は腹膜中皮の傷害と再生の程度を反映すると解釈しており、PETで表されるような腹膜機能、特に腹膜透過性とは相関しないと判断されます。
すなわち、腹膜中皮が傷害されていても、中皮下結合組織、血管内皮の物質透過性が正常であれば、PETは良好に維持されるであろうし、逆に、腹膜中皮が正常でも、中皮下結合組織、血管内皮が傷害されていれば、PETは高値を示すと考えられます。
このようなことから、腹膜透過性と中皮細胞診の結果の間には矛盾したようなことが起こり、もし、EPSが腹膜中皮の傷害、消失、癒着が原因であるとするならば、PETがLowであっても面積が高値であれば、要注意の症例ということになります。実際に、PETがLow averageの症例でも病理組織検査で中皮の消失、中皮下組織硬化を経験しています。PD継続、中止は、細胞診だけでなく、臨床所見、PETできれば病理組織を含めた総合的な判断が必要と思われます。

Topへ

 

Q13 PETがHであり、除水不全もあるのに中皮細胞面積は250mm2未満であり、どう判断してよいのか。

A

我々の考えでは、排液中皮細胞診は腹膜中皮の傷害と再生の程度を反映すると解釈しており、PETで表されるような腹膜機能、特に腹膜透過性とは相関しないと判断しています。
すなわち、腹膜中皮が傷害されていても、中皮下結合組織、血管内皮が正常であれば、腹膜透過性は維持されるであろうし、逆に、腹膜中皮が正常でも、中皮下結合組織、血管内皮が障害されていれば、PETは高値を示すと考えられます。
このようなことから、腹膜透過性と中皮細胞診の結果の間には矛盾したようなことが起こり、もし、EPSが腹膜中皮の傷害、消失、癒着が原因であるとするならば、PETがHighであっても面積が低値であれば、腹膜中皮は良好に保たれているということになります。PD継続可能かどうかは、細胞診、PET、臨床所見できれば病理組織を含めた総合的な判断が必要と思われます。

Topへ

 

Q14 中皮細胞診でEPSを予防できるのか。

A

EPSの成因はまだ不明ですが、我々は、EPSは腹膜中皮の消失による炎症、癒着が原因と考えています。よって、中皮が存在するかぎり、イレウスや限局性の癒着は存在してもEPSは発症しないという考えとなります。
EPSを発症して外科的に癒着を治療したとしても、中皮が回復しないかぎり、将来何らかの炎症が腹腔内に存在すれば、再度EPSになる可能性があることになります。中皮がEPS後に回復するかどうかは、中皮が散在性でもどこかに存在すること、中皮下結合組織に線維芽細胞や正常血管が存在すること、結合組織が完全に変性コラーゲン線維に置換されていないことなどが条件と考えられています。完全なEPSの状態というのは、これらの条件を満たしていないことが多く、とにかく、前EPSの状態(特に腹水など)で早期に対処することが、現状の最良の予防治療かと思われます。
我々はEBMの観点から、細胞診によるEPSや前EPSの発症率をだしており、診断の一助となるよう努力しております。

Topへ